パレットのIoT化により、リアルタイムに所在地を把握できる
ようになりました。将来的にパレット物流の全体最適化を図り、
付加価値を高めるプラットフォームの構築をめざしています。
パレットのIoT化により、リアルタイムに所在地を把握できるようになりました。将来的にパレット物流の全体最適化を図り、付加価値を高めるプラットフォームの構築をめざしています。
パレット管理システム
(写真左より YKK AP株式会社 生産本部 ロジスティクス部 業務情報開発室長 四柳 博之氏、
同部 業務情報開発室 田中 愛子氏、同部 技術・開発担当 最上光雄氏)
アルミ建材メーカー、YKK AP株式会社(以下、YKK AP)では、先進のアクティブRFIDタグを活用し、リアルタイムでパレットの所在地を管理するパレット管理システムを構築。そのPoC(概念実証)から実証検証、設計、構築を日立物流ソフトウェアがトータルでサポートしました。導入の経緯と効果、未来像について紹介します。
* 取材時期 2019年1月
* 記載の担当部署は、取材時の組織名です。
* 2023年4月1日付で、日立物流ソフトウェアはロジスティードソリューションズへ商号変更しました。
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YKKグループでは現在、ファスニング事業とAP(建材)事業を中軸にグローバル事業経営を展開しています。1959年に初の海外拠点を設立してから半世紀以上海外進出も積極的に行っており、現在、世界71の国と地域で活動しています。
YKKグループの原点でもあるファスニング事業は、1934年の創業以来、約85年にわたりスライドファスナー、面ファスナー、繊維テープ・樹脂製品、スナップ・ボタンなどの商品を製造・販売しています。
また、AP事業は、窓やドアといった住まいの「開口部」商品をはじめ、庭や窓辺を豊かにするエクステリアや、快適性が向上するリフォーム商品など、さまざまな付加価値の高い商品を提供しています。
YKK APの「窓」や「玄関ドア」の商品イメージ(写真提供:YKK AP株式会社)
YKK APの「窓」や「玄関ドア」の商品イメージ(写真提供:YKK AP株式会社)
当社では製造所や工場間などで、窓枠やサッシ部材などを運搬する際に特製の専用パレットを利用しています。今回、この専用パレット1つ1つにアクティブRFIDタグを取り付け、所在地や所在地ごとの在庫数などを自動で管理するシステムを構築しました。
パレット管理システムの概要イメージ(資料提供:ユーピーアール株式会社)
パレット管理システムの概要イメージ(資料提供:ユーピーアール株式会社)
現在、同システムを導入している拠点は12カ所、対応パレット数は約4千台となります。最終的には国内20カ所以上の拠点、合計6万台以上のパレットを対象にシステムの利用を拡大する予定です。
窓枠やサッシ部材などを運搬する際に利用する特製の専用パレット
窓枠やサッシ部材などを運搬する際に利用する特製の専用パレット
各拠点にはアクティブRFIDタグの発信する電波を読み取るリーダーを設置しています。今回採用したユーピーアール株式会社(以下、ユーピーアール)の仕組みは、300m以内に設置されているアクティブRFIDタグの電波を受信することが可能な「リーダー」を有し、拠点内に所在するパレットを認識することができます。一方、電波が受信できないパレットは移動中、もしくはリーダーを設置していない場所にあることになります。
「アクティブRFID」(左)、「リーダー」(中央)/写真提供:ユーピーアール株式会社
拠点内に設置されているリーダーの様子(右)
「アクティブRFID」(左)、「リーダー」(中央)/写真提供:ユーピーアール株式会社
拠点内に設置されているリーダーの様子(右)
パレット管理システムで受信した拠点や日時のデータを自動で収集し、下記の機能を用いてパレットの状態を可視化しています。
パレット管理システムの画面例(上:在庫パレット一覧機能、下:圏外パレット照会機能)
パレット管理システムの画面例(上:在庫パレット一覧機能、下:圏外パレット照会機能)
拠点内に保管されているパレットの様子
例えば、空きパレットの認識や、より精度の高い所在位置の特定、マテハン機器との連動など、アクティブタグRFIDの内蔵している各種センサーを業務機能に活用できないかを検証しています。
そのほか、パレットごとのライフサイクル管理や在庫分析、配置や移動の適正化などを図る機能なども検討しています。
今回のプロジェクトは、アクティブRFIDタグ関連機器を提供してもらっているユーピーアールと当社と日立物流ソフトウェアの3社共同プロジェクトとなっています。
日立物流ソフトウェアには、今回のパレット管理システムの構築にあたっての総合的なコンサルティングや実証実験、さらにはシステムの設計・構築、運用サポートまでをトータルで依頼しています。
「パレットという資産の価値を高めるため、管理の自動化と可視化に取り組んでいます」(四柳氏)
近年、人手不足や燃料費の高止まりを背景に輸送費は高騰傾向にあり、トラックの手配がままならない状況が続いています。当社では、窓枠やサッシ部材の輸送効率を図るため、以前から大きく異なる貨物を取りまとめて輸送するユニットロードや、パレット上に商品を載せることで荷姿を標準化するパレチゼーションなどに取り組んできました。そのため、今回管理対象としているパレットも標準品ではなく特注品となっています。
そのような取り組みの結果、全体的な輸送効率は向上しているのですが、その一方、大量のパレットを取り扱うようになり、その管理作業が荷役現場への負担となっていました。
その結果、精緻なパレットの在庫管理ができておらず、各拠点で保管している利用中および空パレットの正確な数量を把握することが難しい状況が続いていました。また、必要なパレットの調達を各拠点が個別で対応していたため、空パレットの拠点間輸送にかかるコストや手間も増加していました。
そのような非効率な状況を改善し、パレットという資産を最大限有効活用するため、経営計画の一環として精緻かつ効率的なパレットの一元管理へと取り組んでいます。
具体的には、あるべき姿としてパレットの「紛失」「返却費」「不足」のゼロ、そして「ムダな購入」のゼロをめざすと共に、「修理・廃棄の適正化」を実現するパレットのライフサイクル管理を実現することをめざしています。今回のパレット管理システムの導入は、このようなあるべき姿をめざす初期段階の取り組みとなります。
パレット管理のめざすべき姿のイメージ(資料提供:YKK AP株式会社)
パレット管理のめざすべき姿のイメージ(資料提供:YKK AP株式会社)
「パレット物流全体を見直して最適化を図る提案をしてもらいました」(最上氏)
日立物流ソフトウェアに相談をする以前、数年間、パレットにパッシブ型のRFIDタグを取り付け、管理を試みました。しかし、管理面で思ったような成果を得られず、また荷役現場におけるタグの読み込み作業も煩雑であったことから見直しを迫られていました。
そのため、多方面に相談や問い合わせもしていたのですが、抜本的な解決策を見いだすことができない状況で、展示会で日立物流ソフトウェアへと相談をしたことが今回の取り組みのきっかけとなりました。
当社においてもアクティブRFIDタグによるIoT化には興味は持っていたのですが、当時はまだアクティブRFIDタグを用いたパレット管理の実績は少なく、不明点も多く技術検証が必要でした。
そこで、ユーピーアールと日立物流ソフトウェアの協力のもと、仕様の詳細を固めてシステム化するウォーターフォール型のシステム開発ではなく、今できること、そして将来取り組むべきことなどを見極めながら、機能単位でシステムを構築していく言わばアジャイル型のスタイルでプロジェクトを進めました。
余談となるかもしれませんが、そのような紆余(うよ)曲折の取り組みの中で特許の申請につながるような技術も生まれています。
当社の課題を既存のソリューションにはめ込むのではなく、積極的に先進的なデジタル技術を取り入れながら、パレット物流全体を見直して最適化を図るプラットフォームを構築するという視点でコンサルティングや提案をしてくれたこと。その内容を、一貫した体制でシステムとして具現化してもらえること。そして、本プロジェクトへと関与する積極性や柔軟かつ迅速な姿勢を高く評価しました。また、物流の専門ベンダーとして信頼感があり、豊富な実績やノウハウがある点にも期待しました。
「パレットの移動状況をほぼ100%確実に把握できるようになりました」(田中氏)
各パレットの移動状況を漏れなく確実に把握できるようになり、拠点ごとのパレット在庫数を即時に確認できるようになりました。わかりやすく言えば、今までは棚卸作業をしないと所在不明のパレットを把握できませんでしたが、今回の導入で所在不明パレットを迅速に検知・把握することができるようになりました。これにより紛失に対する初動が取りやすくなりました。
各拠点におけるパレットの調達もこれまでと比べて事前策を実施しやすくなり、空パレットの配送・回収にかかるコスト削減効果も出始めています。
また、タグ情報の読み取りに人的な作業が不要なので、荷役現場への負担をかけず、情報収集・集約の自動化とリアルタイム化を図れたことも重要なポイントです。
加えて間接的な効果となるかもしれませんが、これまでは管理状況があいまいなこともあり、コスト削減の意識は持っていたものの、パレット管理による付加価値や利益の創出という発想にはいたりませんでした。
しかし、管理情報の精度が向上したことが、社内におけるパレット管理に対する意識改革を後押しして、部署を横断した積極的な議論が交わされるようになり、活用や管理のアイデアが広がっていることも成果の1つとして捉えています。
対応拠点や対応パレットの数を増やしていく予定ですが、配置の最適化や配送コストの最適化を図るためには、より高度な情報分析方法の確立や商品配送情報などとの連携などが必要となると考えています。
データ収集に関しても、大量のデータを取り扱うことになりますので、データ収集のタイミングやデータの管理方法なども、今後の検討課題だと捉えています。
将来的には、パレットに限らず各種部材や商品などの移動情報を管理する共通プラットフォームとして確立していくことをめざしています。
今回のプロジェクトは完成済みのシステムを提供してもらうのではなく、先進的な技術を組み合わせ、現場での検証と改善を繰り返しながら新しい価値を創造していく地道な作業となります。
日立物流ソフトウェアの担当者は当社の状況を的確に把握し、根気強く調査や検証を繰り返し、現場主義のソリューションを提供してくれました。その姿勢は私たちの刺激にもなり、プロジェクトを推進する大きな原動力ともなりました。
また、PoCの段階から一貫した体制でシステムを具現化してもらえますので、コンセプトがぶれることなく迅速に対応してもらえる点も高く評価しています。
今後もプロジェクトは「あるべき姿」をめざして継続していきます。これまでと同様、技術と現場をつなぐ存在として、積極的な対応と先進的なソリューションの提案・実現に期待しています。